地震による木造住宅の耐震性能は構造計算しないと分かりません!
地震による木造住宅の耐震性能は構造計算しないと分かりません!
目次
・大地震による木造住宅の状況
・地震で学んだ木造住宅の耐震性能
・地震で倒壊した木造住宅とは?
・木造住宅をしっかり計算するとは構造計算する事!
・実は詳しい計算をしていない木造住宅!
・木造住宅の耐震性能を示す構造計算は3種類あります!
・木造住宅の耐震性能は「耐震等級」で表します。
・木造住宅の間取りを考える時から構造(耐震性能)も考える!
・木造住宅を設計する建築士の仕事とは?
・大地震による木造住宅の状況
気象庁のホームページに震度階級と呼ばれる、震度とゆれの状況を図にしたものが乗っています。
こちらの図は平成8年4月より掲載されています。
この図によると震度6弱以上で建物(特に木造住宅)が倒壊する可能性があります。

建物(木造住宅)が倒壊する可能性のある地震(震度6弱以上)は平成8年4月から平成31年の4月までの23年間で54回、5.1ヶ月に一回のペースで発生しています。
明らかに大地震の発生は増えていますので、木造住宅の耐震について本気で考える必要があります。
・地震で学んだ木造住宅の耐震性能
2016年に発生した熊本地震。
地震災害で犠牲になられた方のご冥福をお祈りすると同時に、被災されました方々に心よりお見舞いを申し上げます。
この地震により様々な事がわかりました。
このような地震災害が起きないように木造住宅に携わるすべての方が教訓にして今後望んでいく必要があると感じています。
そもそも、大地震で命を落とすのは、大半が「人」です。
映画などでは、地震で地割れがおきて人が飲み込まれていくのを見かけますが、そんな地震はないと専門家が言っていました。
それでは、どうして人が命を落とすのか?
それは、人がつくった建物(木造住宅)が倒壊するからです。
人がつくった道路が割れるからです。
人が削った山が倒壊するからです。
ようするに人がつくったものが壊れる事で、命を落としています。
倒壊しない為には人がつくるものを止めればいいのですが、そんなわけにもいきません。
雨の日に野宿、車もなしに遠い場所に移動するのはとても困難となります。
そうなると、地震でも倒壊しない建物(木造住宅)や道路を造る事が必要になります。
・地震で倒壊した木造住宅とは?
2016年の熊本地震では古い木造住宅だけでなく、築年数の浅い木造住宅も被害を受けていました。
古い木造住宅は建築基準法が整備されていない頃の住宅なので、住宅を支える壁の配置バランスが悪いものが多くありました。
又、土葺きの瓦屋根が多く屋根の重量が非常に大きいのに、住宅を支える壁が少ないものも倒壊しています。
それでは、ここで問題です。
瓦の屋根の重量が大きい木造住宅と鉄板などの屋根の重量が軽い木造住宅とどちらの木造住宅が地震に強い家でしょうか?
答えはどちらもしっかりと計算すれば地震に強くなります。

上の図のように力士と一般の方とで、体重に3倍差がある時、地震の力は力士に3倍多くかかります。
じゃあ、軽い方がいいじゃないかと思うでしょうが、力士はその分一般の方よりも足腰が丈夫なので倒れません。
重さをしっかり計算する事で、どちらも地震に強くなります。
又、建築基準法という法律では地震の力に対して必要とされる壁の量が決められています。
古い木造住宅が建てられていた頃は、建築基準法が整備されていなかったと思いますので、仕方がありません。
しかし、現在は屋根の重さや雪の積もる量によりどれだけ壁が必要か計算しなければいけません。

上図のような基準があります。(左が一般地域用で右が積雪の多い地域用)
床の面積に上記の数字を掛けることで、必要な壁の量を出す事が出来ます。
それではなぜ、築年数が浅い木造住宅でも倒壊が起きたのでしょうか?
建築基準法も整備され、昔にはなかった技術や材料が用いられているのに倒壊してしまったのか?
想定外の規模の地震だった。
建物真下に活断層があった。
地盤が弱かった。
などなど言われていますが、根本的な原因は、
「しっかり計算していなかった」
これに尽きます。
経験と勘で建物(木造住宅)を建てる事はあてになりません。
・木造住宅をしっかり計算するとは構造計算をする事!
先ほどから、「しっかり計算していない」や「しっかり計算する事で」などの言葉を用いていますが、しっかり計算するとはどういう事をいうのかご説明します。
しっかり計算するとは「構造計算をする」という意味です。
それでは、構造計算とはいったい何でしょう?
簡単に説明します。
「構造計算とは家(木造住宅)を建ててから寿命を迎えるまでの間、家族みんなが安全で快適に過ごせるか、家(木造住宅)の安全性を確認する事」です。
地震だけではなく、台風のときの安全性、家(木造住宅)そのものの重さや、人や家具の重さ、雪が沢山降る地域では、屋根に積もる雪の重さによって家(木造住宅)がつぶれないかも計算します。
もう少し詳しく説明すると、家(木造住宅)の荷重は2種類あります。
一つは水平方向でもう一つは鉛直方向に働く力です。

佐藤実著 楽しくわかる!木構造入門より
水平方向とは家(木造住宅)に対して横方向に働く力で、地震力(地震によって受ける力)と風圧力(風や台風によって受ける力)の2つを計算します。
鉛直荷重とは地球の重力によって働く力で、固定荷重(木造住宅そのものの重さで自重とも言う)と積載荷重(人や家具の重さ)と積雪荷重(屋根などに積もる雪の重さ)の3つを計算します。
合計5つを計算する事を構造計算と言い、これがしっかり計算するという事になります。
・実は詳しい計算をしていない木造住宅!
ここで、残念な報告があります。
木造住宅の家のほとんどが構造計算をしないままで建てられています。
これには、多くの理由や誤解があります。
木造住宅は身近にある材料(木)を使っているので、手軽に造れる事や人々が実際に住んできた歴史があり、構造の安全を確かめる意識が薄い事もあると思います。
さらに、建築基準法でも木造住宅は手軽に建築できると考えられていて、構造の安全性を確かめる規定が少ない事も関係しています。
2000年に法律が改正されて木造住宅の仕様規定という構造の安全に関する最低限のルールが変わりました。
しかし、木造住宅は確認申請(建築をしようとする場合、こんな建物を建てますと市や民間の検査機関に申請を行う事、ここで法律に沿った建物なのかを確認してもらう)の時に構造計算書の提出が義務化されていない事で、法律改正に対応しないまま、あるいは法律が変わった事も知らない人もいるようです。
残念な事ですが、確認申請に出さなくていいから構造計算をしなくていいと思っている方がいるのが現状です。
ですから、確認申請がOKだとしても建築基準法という法律に適合しているわけではありません。
構造計算をしない理由にその他こんな意見もあります。
1.お客様がそこまで求めていない需要がない!
2.経験と勘で計算しなくてもわかる!
3.建物の値段が高くなってしまうから!
4.計算するのが面倒くさい!
などといった意見もあります。
1と2に関しては論外です。
お客様が求めていないといっても、お客様はプロではないので知らないのです。
プロが説明をしないと分かるはずがありません。
車で例えると「エアバッグをつけて下さい。」と言わなくてもどんな車でも必ずついています。
それと同じで、お客様が求めなくても構造計算をしておくべくだと思います。
経験なんかはもってのほかです。
今まで木造住宅が倒壊した経験がない=今まで大きな地震にあった事が無いというだけの事です。
3と4に関しては構造計算をすると、とても手間暇が掛かります。
その分を建物もしくは構造計算手数料として値段に反映しないと木造住宅会社、建築会社、工務店、ハウスメーカー、設計事務所などは利益がなくなり会社を維持していくのが困難になるので、分からなくもありません。
しかし、正当な値段であればお客様も納得してもらえると思います。
安い買い物ではないので、長く住み続けて頂く為には必要経費なので、面倒くさいと言わずに計算しなければいけません。
・木造住宅の耐震性能を示す構造計算には3種類あります!
木造住宅の構造計算には大きく分けて3種類の方法があります。
1.建築基準法による仕様規定
2.住宅の品質確保の促進等に関する法律(以後品確法)による性能表示計算
3.建築基準法による許容応力度計算
難しい言葉ばかりなので、少し解説をします。
この3種類はそれぞれ計算の方法が違います。
まず、木造住宅で必ず検討しなければいけないのが1.の仕様規定です。
しかし、安全性を確かめるにはちょっと物足りません。
仕様規定は3つの簡易計算と8つの仕様ルールがあるだけで、少し勉強すればすぐに覚えられます。
木造住宅を建てる際に、必ず守らなければいけない最低ラインだと覚えて下さい。
例として下図のような図面になります。
(参考なので別の図面の場合もあります。)


次に、2.の品確法による性能表示計算です。
これは、住宅の品質確保の促進等に関する法律に規定されている計算です。
耐震等級、耐風等級、耐雪等級などの計算があります。
1.の仕様規定よりも計算項目が多く計算のレベルも高く難しくなります。
しかし、性能表示の計算もすべての安全性について計算しているわけではありません。
「スパン表」と呼ばれるあらかじめいくつかの条件を決めて計算した表から、基礎や骨組みを選んでいくので、少し経済的にならない事もあったりします。
例として下図のような図面になります。
(参考なので別の書式の場合もあります。)

一番詳しくわかるのが3.の許容応力度計算です。
3つの計算の中で一番詳細に計算をします。
木造住宅の3階建ては必ず必要になります。
許容応力度計算をクリア出来れば木造住宅はとても安全で丈夫になります。
しかし、計算を行うには他の計算に比べて構造に関する知識と経験が必要になり、構造設計だけで会社を行っている方もいます。
例として下図のような計算書になります。
(参考なので別の書式の場合もあります。)


以上の事から許容応力度計算をするのが一番理想的です。
その他に、許容応力度計算と性能表示計算や仕様規定をうまく組み合わせて計算する方法もあります。
木造住宅の規模や形状に建てる場所を考えて、各計算を組み合わせて考える事でより丈夫な木造住宅に出来ます。
つまり、それぞれの木造住宅に合った計算の組み合わせを考えて行うのがベストだと思います。
本音を言えば、木造住宅全てを許容応力度計算出来ればいいですが…
・木造住宅の耐震性能は「耐震等級」で表します。
木造住宅の構造計算による計算結果を「耐震等級」というもので表すと木造住宅の耐震性能が一目瞭然で分かります。
耐震等級という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。
こちらは、品確法の性能表示制度というもので用いられています。
耐震等級には1~3までの等級があり、数字が大きいほど地震に強いです。
具体的には・・・
耐震等級1・・・建築基準法で求められる耐震性能
耐震等級2・・・建築基準法で求められる耐震性能の1.25倍の耐震性能
耐震等級3・・・建築基準法で求められる耐震性能の1.50倍の耐震性能
となっています。
しかし、これだけでは良く分かりませんよね。
建築基準法で求められている耐震性能とは、このように記されています。
「大地震(建物の供用期間中に一度遭遇するかも知れない程度の地震)に対して(一度だけ)倒壊・崩壊せず、人命が守られること」
つまり、建築基準法では、大地震に対して一度しか命を守ってくれないのです。
そのまま木造住宅に住み続ける事を想定していません。
では、大地震後も住み続けられる木造住宅は、というと・・・
ずばり耐震等級3の木造住宅になります。
次のデータをご覧ください。

一般社団法人 くまもと型住宅生産者連合会:耐震等級3のススメ
こちらは建築学会により実施された熊本県益城町中心部の悉皆調査*の結果です。
「耐震等級3」の木造住宅は大きな被害がなかった事が証明されていました!
*悉皆(しっかい)調査:調査対象物件をもれなく調査する方法
「耐震等級1」の建物と「耐震等級3」の建物の地震被害状況を踏まえると、
耐震等級1とは、命は守るけど、もう住めない木造住宅
耐震等級3とは、命も財産も守り、また住み続けることが出来る木造住宅
と言って良いと思います。
・木造住宅の間取りを考える時から構造(耐震性能)を考える!
耐震等級3の木造住宅を造る為には、設計の仕方も重要になります。
それでは木造住宅の設計の仕方を紹介します。
基本は意匠設計*と架構設計*を同時に設計します。
*意匠設計とは間取り(平面図や立面図)を設計する事
*架構設計とは構造(構造伏図、柱、梁の組み立て)を設計する事
間違っている木造住宅の設計は
①意匠設計→構造的に無理のある計画が発生
②架構設計→無理に納めた架構設計
①と②の順番で行っていては、事故につながります。
こんな設計をしている建築士はいないと思いますが・・・
その他に架構設計で気をつけなければいけない事があります。
木造住宅の柱と梁の組み方はシンプルにすることです。
下図をご覧ください。

柱と梁の組み方をシンプルにするとは、2階の柱の下には1階の柱を建てる事です。
こうする事で、地震などの力をスムーズに受け流す事が出来ます。
反対に、柱の下に柱が無いと地震などの力がスムーズに流れずに、無理が生じます。
鉄骨造や鉄筋コンクリート造などでは、当たり前のように上の階の柱の下には下の階の柱を建てるのに、木造住宅だけはあまり行われていません。
その他にも無理に大きな空間を造ると木造住宅は地震に耐えられなくなります。

木造の場合、上の図ぐらいの大きさが構造的に限界になってきます。
この大きさは、畳10枚分の大きさです。
それでは、一番大きな部屋は10畳までしかとれないの?と思うかもしれませんが、そうではありません。
この大きさの4隅を柱で囲まれた区画をつなげばOKです。
2区画つなげれば20畳、3区画つなげば30畳になります。
4隅を柱で囲まれた区画を上の図のサイズ以下にすれば、木造住宅を自由に設計する事が出来ます。
・木造住宅を設計する建築士の仕事とは?
木造住宅で使いやすい間取りやかっこいいデザインなどの機能性を考える事はもちろん重要です。
しかし、その前に省エネや耐震などの基本性能があってこその機能性だと思います。
木造住宅を建てたいと思っている方は当然、基本性能があるものだと思っています。
プロではないので、「基本性能はどれぐらいですか?」など分からないことだらけなので、とても聞けるとは思えません。
建築士としての責務・倫理観は法律によって定められています。
建築基準法では、
第一条(目的)
「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする」
建築士法では、
第一条(目的)
「この法律は、建築物の設計、工事監理等を行う技術者の資格を定めて、その業務の適正をはかり、もつて建築物の質の向上に寄与させることも目的とする」
第二条の二(職責)
「建築士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、建築物の質の向上に寄与するように、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない」
このようにあります。
法律的な観点からも基本性能をまず行わないといけません。
つまり建築士の仕事とは?
「命を守る建物をつくる仕事をしている」
と言い換えても良いと思います。
やはり基本性能が何よりも一番大切です。
このような考えの建築士が増え、すべての木造住宅に構造計算がされて、地震による倒壊がなくなる日が来ることを願いつつ終わりにしたいと思います。
土岐市で木造住宅の地震時の耐震性能の構造計算はワダハウジング
ワダハウジング和田製材株式会社
一級建築士、一級建築施工管理技士
纐纈和正