2025.05.16
住宅の気密はどこまで高めたらいいの?省エネの専門家や様々な資料から解説します

こんにちは!
ワダハウジングの纐纈です。
一級建築士など多数資格を持っています!
住宅の気密についてXにポストが結構あがっています。
気密性能をあらわす、C値0.1とかすごいなぁ~と思いつつも、多少自慢したいのかなとも思ってしまいます。
(気密性能はC値という数字が小さいほど気密がよいことを示しています。正式名称は相当隙間面積といい、単位はc㎡/㎡になります。)
なんとなくのイメージで、C値がよい住宅だとそれだけですごいいい住宅!って思ってしまいます。
逆にC値が悪い住宅だと施工がよくない住宅と感じられてしまいます。

実際にはそんなことはないのですが…
そんな、なんとなくのイメージを高気密住宅の誕生から順を追って説明をしていきたいと思います。
目次
高気密住宅の誕生
高気密住宅の概念が日本に入ってきたにのは、オイルショック後だと聞いています。
オイルショックによって省エネの意識が高まり、欧米の断熱技術が北海道などの寒冷地から始まったそうです。

当初は、断熱材の強化と窓の性能を高くすることがメインで、防湿(気密)は重要視されていませんでした。
防湿(気密)が抜け落ちていたせいで、北海道の新築住宅の床が3年で腐り落ちるという「ナミダタケ事件」が多発したそうです。
ナミダタケ事件は詳しく説明しませんが、防湿(気密)ができていなかったことで、暖かい空気が床下に入ってしまい、寒い床下で結露が発生して木材を腐らせてしまったことが原因です。
これを機会に内部でも結露を防ぐため、防湿(気密)が大事だと気が付いて、高断熱+高気密がセットになったと言われています。

省エネ基準と気密の関係性
1999年に次世代省エネ基準が創設されて、断熱性能と気密性能が地域ごとに設定されました。
特に気密性能をあらわすC値は、一般地域で5.0以下、北海道などの寒冷地で2.0以下とけっこう緩い基準でした。
さらにいうとC値は測定しないと分からないにも関わらず、測定する義務さえありませんでした。

その後も計算上の断熱性能をクリアすれば、長期優良住宅の認定や性能表示制度の性能評価が取得できるようになったことで、C値はあまり重要視されなくなり、現在は防湿(気密)性能の記述はあるのですが、気密の基準は削除されています。
気密の誤解と事実
気密性能には誤解されている部分が多々あります。
「風通しが悪くなる」「息苦しくなる」「シックハウスになる」「ハウスダストが溜まる」など気密のイメージだけで判断されている部分もあります。
私達住宅のプロの中にも「気密はC値5.0で十分、次世代省エネ基準の時の数値をクリアしていれば問題ない」「うちは寒冷地のC値2.0ですので安心です」などと今は廃止された基準を持ち出してくる方もみえます。

気密のイメージの中でその通りだと思うのが「ハウスダストが溜まる」ことです。
高気密住宅は気密が高いので、空気の逃げ道がないのでハウスダストが溜まりやすくなります。
これは、換気計画が出来ていないから溜まります。
現在は建築基準法で1時間に0.5回、2時間で1回以上、住宅内の空気を入れ替える24時間換気が義務化されています。

画像のような換気扇などで住宅内の空気を入れ替えます。
この時に気密が高い住宅の方が、換気計画をした通りに換気ができます。
気密が悪い住宅は、換気扇のまわりやコンセントまわりなど色々な場所から空気入ってくるので、計画通りに換気ができません。
よってハウスダストが溜まってしまいます。
ちなみに、気密と換気はストローで飲み物を飲むときの状態で説明されることが多いです。

ストローを気密、飲み物を新鮮な空気としたとき、しっかりとストローの先を飲み物(新鮮な空気)の中に入れて吸い込むと何の問題もなく飲むことが出来ます。
吸う強さによって飲む量も調整できます。
この状態が理想の換気になります。

しかし、このストローに小さな穴が沢山あいていたらどうなるでしょうか?
穴から空気がスースーと抜けてしまい飲み物が吸いにくくなります。
またその穴から飲み物が出てきたり、本来吸い込むストローの先からあまり飲み物が出て来ない状態になってしまいます。
この穴が住宅の隙間、そして穴から入る思いもしない飲み物を漏気と呼びます。
漏気があると計画した通りの換気が出来ません。
気密は、換気がしっかり出来るように、思いもしない漏気を防ぐ役割もあります。
高気密住宅のメリット

高気密住宅の最大のメリットは、暖房や冷房を少ないエネルギーで快適な室温にすることができることです。
少ないエネルギーという事は、光熱費が安くなります。
この電気代が高騰している現在では、とてもありがたいことです。
ついでと言っては失礼ですが、環境に優しいことにもつながります。
暖房や冷房が効きやすいので、無駄なCO2が排出されないことが大きな要因です。
(細かく説明すると他にもあるのですが、割愛させていただきます。)

高気密住宅のデメリット
どんないいことにも必ずデメリットはあります。
高気密住宅にするには少なからず、職人さんの手間が増えます。
気密を取るための建築材料も必要になるので、その分だけ住宅価格が高くなります。
その他に、結露とカビのリスクもあります。

壁の中や天井裏などで起こる「内部結露」がカビや木材を腐らせる腐朽菌を発生させてしまい、住宅の構造に悪影響を与えてしまうことがあります。
ただし、適切な設計と施工がされていれば起こることはありません。
ここでいう設計とは、壁や天井をつくるための材料の選定です。
選定した材料の構成が夏と冬どちらの時期でも「内部結露」をしないか計算で確かめる必要があります。

上記画像が結露しないか計算をするソフトの画面です。
弊社の場合は、岐阜県立森林文化アカデミーの辻先生のセミナーでいただいた定常計算ソフトを使い計算をしています。
上記のような計算ソフトで結露しないか確かめた上で、正しい順番で丁寧に施工を行えば結露は発生しません。
気密のせいでは決してありません。

断熱・気密・換気はセット
住宅の快適さと耐久性、住む人の健康を守るには断熱、気密、換気をセットで考える必要があります。
どれか一つでも欠けると快適さや耐久性、住む人の健康が守れなくなります。
断熱と気密は特にメンテナンスは必要ありませんが、換気だけはメンテナンスが必要になります。
フィルターの清掃や故障した時にすぐ交換するなど住む人の手間が掛かるので、メンテナンスのしやすさにも注意が必要です。

上記画像はPanasonicのパイプファン
気密はどこまで高めたらいい?
それでは、本題に戻りまして気密はどこまで高めたらいいのでしょうか?
これは人によって違うと思います。
C値0.1以下じゃないとダメだ!
C値1.0あれば十分!
プロである私たちも判断が難しいところです。

上記画像は気密試験の結果報告書からの抜粋になります。
気密について「HEAT20」一般社団法人20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会が見解を示してくれていました。
この団体は、
理事長:坂本 雄三先生(東京大学 名誉教授)
理事:鈴木 大隆さん(北海道立総合研究機構)
理事:岩前 篤先生(近畿大学 副学長 建築学部長 教授)
理事:砂川 雅彦さん(住環境コンサルタント)
理事:栗原 潤一さん(住環境α研究所)
理事:布井 洋二さん(旭ファイバーグラス株式会社)
監事:新井 政広さん(株式会社アライ 代表取締役)
そうそうたるメンバーで調査研究・技術開発と普及定着を図っています。

HEAT20設計ガイドブックからの抜粋になります。
真ん中あたりに(C値で0.7±0.2[c㎡/㎡])とあります。
「HEAT20」一般社団法人20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会ではC値は0.5~0.9の範囲を推奨していることになります。
その他に東京大学准教授の前先生という専門分野が建築環境工学で、研究テーマとして住宅のエネルギー消費全般をされている先生にいただいた資料ではこうなっていました。

上記画像はC値によるエネルギーロスをグラフにしたものです。
C値1とC値0.5で3W/Kしか熱損失が変わりません。
それよりも断熱性能のほうがかなり大きくなっています。
4月から義務化された等級4の住宅では244W/K熱損失があります。
弊社の標準である等級6でも129W/Kの熱損失があります。
このことからも、過剰なC値を求めるよりも断熱性能を高めた方がよいと言えます。

一般社団法人北海道建築技術協会の資料ではC値1で自然給気口から50%しか新鮮な空気が入ってこないともあります。
いろいろな資料を踏まえると、「HEAT20」一般社団法人20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会でのC値は0.5~0.9の範囲というのは納得がいく範囲です。
気密は劣化する?
C値は経年劣化をするというデータもあります。
これは、住宅に使用されている木材に含まれた水分が抜けることが要因です。

木材にはだいたい20%以下ぐらいの水分が含まれています。
水分が含まれていないと釘やビスを打ったときに、木材が割れてしまうことを防ぐことが目的です。
この水分が乾燥して木材が収縮することで、徐々に小さな隙間が出来て気密が悪くなります。
この他に、住宅は微細な振動を繰り返していることも影響しています。
強風や台風、小さな地震の影響で隙間が出来てしまいます。

論文などでは、20年でC値が半分になるというものもありますが、2004年の北海道住宅新聞の記事でR-2000実験住宅では性能劣化なしとあります。
R-2000実験住宅とは、昭和63年から平成元年にかけて造られた2×4工法の高気密高断熱住宅です。
その住宅を15年後に再度気密試験を行ったそうです。

正確には、少々数値が悪くなっていたようです。
A邸(昭和63年)完成時C値0.62→15年後1.10(+0.48)
B邸(平成元年)完成時C値0.46→15年後0.59(+0.13)
C邸(昭和63年)完成時C値1.27→15年後1.56(+0.29)
A邸のC値だけ劣化の幅が大きいのは、煙突の穴が塞げなかったからだそうです。
しっかりと施工をしていれば、年数が経過しても著しく気密が悪くなることはないようです。

そうはいっても、経年による住宅性能の劣化は避けられません。
なるべく劣化しないような造り方が大事になります。
1.揺れにくい住宅にする
住宅の気密の劣化を防ぐには、揺れにくい住宅にすることが大事です。
しっかり気密施工をしても小さな地震や強風で揺れてしまっては、構造の木材が動き隙間ができやすくなります。

計算によって、耐震性と耐風性を確かめられた住宅が必須です。
その上で、制振装置などもあると更に劣化が抑えられます。
2.C値は1.0を必ず下回る
気密が悪いと住宅内で温度差ができやすくなり、結露しやすく劣化を早めることにつながります。
必ずC値1.0以下を達成するべきです。

先ほども載せた一般社団法人北海道建築技術協会の資料です。
C値1.0以下にしないと換気が上手く働かないので、必ず下回る必要があります。
欲を言えば、経年劣化にそなえてC値0.5~0.7を目指したいところです。
3.劣化しにくい材料を使用
気密施工は気密専用の材料を使用することが大事になります。
専用の材料でない場合、住宅完成時によいC値が出たとしても経年劣化が早く、数値も大幅に落ちてしまいます。

気密専用の材料は「伸縮力と耐久性」が高くなっています。
経年劣化で木材が縮んだり、動いたりしても気密専用の材料なら、その伸縮力で隙間ができることを防げます。
気密専用の材料は様々な性能試験をクリアしないといけないので、おのずと耐久性も高くなります。
ただし、価格は一般的な材料よりも高くなっています…
まとめ
住宅の気密はこだわればこだわるほど、住宅本体の価格が高くなります。

上記の画像でC値は真ん中あたりの相当隙間面積の部分になり、この物件は「C値0.4」です。
どの程度の気密性能にするかは各会社によって変わってきますが、「HEAT20」一般社団法人20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会や東京大学准教授の前先生の資料、一般社団法人北海道建築技術協会の資料を踏まえて「C値1.0以下は必須、経年劣化を考慮して0.5~0.7を目指す」で快適さと耐久性、住む人の健康を守ることができると考えます。
もちろん「揺れにくい住宅」と「気密専用材料の使用」は必須です。

C値0.1からC値0.5~0.7だと少し手間が減りますし、気密専用材料も過剰に使用しなくてよくなり、結果として住宅建築費用が少し安くなります。
その分で、デザインにお金を掛けたり、好きなキッチンにしたり、収納を増やしたりすると暮らしがより楽しくなると思います。
参考にしてくださいね。


ワダハウジング和田製材株式会社
・一級建築士
・一級建築施工管理技士
・省エネ建築診断士(エキスパート)
・住宅外皮マイスター
・一般社団法人みんなの住宅研究所会員(会員番号:200019)
・既存住宅状況調査技術者
・JBN省令準耐火構造資格者
纐纈和正
