2025.06.16
そもそも構造計算って何?家や建物の構造計算には種類があるの?

こんにちは!
ワダハウジングの纐纈です。
一級建築士など多数資格を持っています!
家の耐震性や耐風性を確認するのに弊社では、全棟で許容応力度計算という構造計算をしています。
そもそも構造計算とは何?と思う方もいると思いますので、まずは、構造計算とは何かから説明をしたいと思います。

構造計算とは?
構造計算とは、その家や建物が自重(家や建物自体の重さ)、積載荷重(人や家具などの重さ)、地震、台風、積雪といった様々な外からの力に対して、構造の安全性を確保するために必ず必要な技術です。
特に、日本は世界有数の地震発生国でもあります。
家や建物の耐震性を確保することは、人の命と財産を守る上で極めて重要なことです。
構造計算は、家や建物にかかる様々な力を算出して、それに対して安全であることを確認する必要不可欠な業務になります。

それでは次に、どんな構造計算があるのかを説明をしたいと思います。
構造計算の種類
構造計算には「仕様規定(簡易計算)」「性能表示計算」「許容応力度計算 (ルート1)」「許容応力度等計算 (ルート2)」「保有水平耐力計算 (ルート3)」「限界耐力計算」「時刻歴応答解析」と7種類あります。

仕様規定(簡易計算)
仕様規定とは、建築基準法において主に小規模な木造建築物である家などを、比較的簡易な計算で、安全性を確認するものです。
厳密な意味では「構造計算」とは異なりますが、家や建物の最低限の安全性を確保するための規定です。
家や建物を建てるには、工法、材料、寸法などに関する具体的な規定が建築基準法で定められています。

上記画像は井上書院さんの建築関係法令集
仕様規定には、地震や台風などに対して必要な、耐力壁と呼ばれる地震や台風に耐える壁の量を確保するための壁量計算、壁の配置バランスを評価するための四分割法、柱の頭や脚の接合方法を決定するためのN値計算法、そして柱の断面積(小径)の確認などが含まれています 。

これらの規定は、家や建物が最低限の構造であることを簡易に確認するためのもので、複雑な形状の建物や、より高い安全性が求められる建物に対しては、その適用範囲に限界があります。
実際には「最低限の簡易計算を行うための規定で、建物の安全性を確実に担保することは難しい」とされています。
2022年からの省エネルギー基準の強化で、高性能で重い窓、断熱材の増加や太陽光発電の搭載などにより、家や建物の重量が増加しています 。

このような変化に対応するために、2025年4月に建築基準法の改正が行われ、木造建築物を中心に壁量基準や柱の小径基準が見直されました 。
この改正で、簡易な計算ルートであっても、現代の建物の実情に近くなった印象はあります。
性能表示計算
性能表示計算とは、主に「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)における住宅性能表示制度にて、家の耐震性能をはじめとする各種性能を等級や数値で評価するための計算方法です
耐震性能に関しては、「耐震等級」として1~3で評価をします。

この計算では、仕様規定で求められている壁量計算に加えて、床や屋根の水平構面と呼ばれる部分の強度、それらの強度に応じた横架材(梁や桁)と柱の接合部の強度なども検証をします。
長期優良住宅の認定を受けるためには、原則として耐震等級3以上(許容応力度計算の場合は耐震等級2)が必要とされているので、多くのハウスメーカーや工務店が採用しています。
同じ「耐震等級3」という評価であっても、その評価の根拠となる計算によって、実際の強度が変わってきます。

性能表示計算は、比較的簡単に等級を取得できる一方で、この後に説明をする許容応力度計算よりも、検討項目が少なくなります。
一般的には、より詳細に厳密な検討をする許容応力度計算の方が、高いレベルの安全性を確保できます。
許容応力度計算 (ルート1)
許容応力度計算は、建築基準法施行令第81条第3項に基づき、同令第82条各号及び第82条の4に定めらている構造計算であり、建築業界では「ルート1」と呼ばれています 。
許容応力度計算は、建物の構造計算において最も基本的な計算方法の一つといわれています。

計算としては、建物に作用する固定荷重、積載荷重などの長期荷重や、地震力・風圧力といった一時的に作用する短期荷重に対して、主要な構造である柱、梁、耐力壁などの内部に生じる力が、それぞれの材料ごとに定められている「許容応力度」を超えないことを確認するものです 。
許容応力度とは、材料が弾性範囲という、力が除かれた時に元の形状に戻る範囲で、安全に耐えられる応力の限界値に安全率を見込んだものになります。
具体的には、稀に発生する中地震に対して、主要な構造である柱、梁、耐力壁が損傷せず、台風時においても倒壊しないことを計算します。

主な計算項目は、家や建物にかかる全ての荷重(自重、積載荷重、積雪荷重、風圧力、地震力など)を算定し、それによって各構造材に生じる応力(軸力、曲げモーメント、せん断力など)になります。
その応力を柱や梁などの部材断面積で除して応力度を求め、許容応力度と比較検証をします 。
加えて、建築基準法施行令第82条の2に基づく層間変形角の検討(原則として1/200以内、ただし構造上支障がない場合は1/120以内)や、令第82条の4に基づく屋根ふき材等の構造耐力安全性の確認も、条件によっては計算をしないといけません 。

許容応力度計算の適用範囲は、木造の建物なら高さ13m以下かつ軒の高さ9m以下などの条件を満たすもの です。
おおよそ、3階建て以下になると思います。
鉄骨の建物では、高さ13m以下、軒高9m以下、柱スパン6m以下、階数3階以下、延べ面積500㎡以下といった基準(ルート1-1)のほか、柱スパンや階数、面積、偏心率の条件によってさらに細分化されたルート1-2、ルート1-3なども存在します 。
鉄筋コンクリート造(RC造)では、高さ20m以下で、かつ規定された量の耐力壁を有する建築物などが対象となります。

許容応力度計算のメリットは、他の構造計算よりも計算がしやすく、設計の自由度も比較的確保しやすいので、コストや工期も抑えやすいです 。
許容応力度計算は、それ自体が独立した計算ですが、この後に説明をする、より高度な計算ルート(ルート2、ルート3)や限界耐力計算、時刻歴応答解析においても、その一部として用いられる基本となる計算になります。
許容応力度等計算 (ルート2)
許容応力度等計算は、建築基準法施行令第81条第2項第二号イに規定される構造計算方法であり、一般に「ルート2」と呼ばれています。
この計算方法は、ルート1の許容応力度計算を基礎としつつ、さらに建物の全体的な挙動に関する検討を加えます。

具体的な計算としては、許容応力度計算(一次設計)の他に、二次設計として、地震時の各階の層間変形角が一定値(原則として1/200、構造上支障がない場合は1/120)以内であることの確認、各階の剛心と重心のズレを示す偏心率が0.15以下であることの確認、そして各階の剛性率(上下階の剛性のバランスを示す指標)が0.6以上であることの確認などが求められます。
また、建物が保有すべき最低限の水平耐力(必要保有水平耐力)を算出し、実際の建物の耐力がこれを上回っているかの確認もしなくてはいけません。

許容応力度等計算は、中規模の建物を計算する時に使います。
鉄骨造では、建物の高さが31m以下で、塔状比(建物の高さ/短辺長さ)が4以下などの条件を満たすものになります。
RC造では、高さ20m以下で、塔状比4以下、偏心率0.15以下、剛性率0.6以上の条件を満たすものが適用されます。
保有水平耐力計算 (ルート3)
保有水平耐力計算は、建築基準法施行令第81条第2項第一号イに規定される構造計算方法であり、一般に「ルート3」と呼ばれています。
この計算方法は、建物が極めて稀に発生すると想定される大地震(震度6強から7程度に相当)が起きた際に、人命を最優先として、建物が部分的に損傷することは致し方ないとしつつも、最終的には倒壊・崩壊に至らないことを検証する計算方法になります。

主な計算項目は、建物の各階が保有すべき最低限の水平耐力(必要保有水平耐力)を算定します。
これは、地震時に建物に作用する地震力と、建物の重量や振動特性などから求める必要があります。
実際に設計された建物が保有する水平耐力(保有水平耐力)を、部材の降伏や破壊メカニズムを考慮して算出し、これが各階に必要な保有水平耐力を上回っていることを確認します。
さらに、大地震時の層間変形角が一定の許容値(一般にRC造で1/100、S造で1/150程度とされることが多いが、構造や部材の靭性によって変わります)を超えないことと、各部材が必要な靭性を確保していることなども検証しなければいけません。

保有水平耐力計算は、主に高さが31mを超えて、60m以下の比較的大規模な建物や、ルート2の基準(剛性率や偏心率など)を満たすことが難しい不整形な建物、あるいはより高い耐震性能が要求される重要な建物などが該当します。
ルート3による構造計算は、その計算の複雑性と設計判断の専門性の高さから、原則として構造計算適合性判定(適判)の対象となり、第三者機関による客観的なチェックを受けることで、計算の妥当性と安全性を担保しなくてはいけません。
限界耐力計算
限界耐力計算は、建築基準法施行令第81条第2項第一号ロに規定される構造計算方法です。
この計算方法は、2000年の建築基準法改正時に、建築物の性能をより直接的かつ合理的に評価する手法として導入された、比較的新しい計算になります。

建物が地震、台風、積雪といった様々な外力に対して、あらかじめ設定された複数の「限界状態」に至らないことを検証をします。
限界状態は二つに定義されています。
1.損傷限界 (Damage Limit State)
建物の耐用年数中に一度は遭遇する可能性がある、比較的頻度の高い中規模の地震や、通常の設計で考慮される台風や積雪に対して、構造体や仕上げ材などの非構造部材に著しい損傷がなく、大規模な補修をすることなく建物の使用が可能である限界状態。
2.安全限界 (Safety Limit State)
極めて稀に発生すると想定される大規模な地震(数百年に一度程度)や、設計で想定される最大級の暴風や豪雪に対して、建物が倒壊・崩壊することなく、内部にいる人の命の安全が確保できる限界状態 。
建物に大きな損傷が生じることは致し方ないとされていますが、最終的な崩壊は許容していません。

計算項目は、各限界状態に対応する設計用の外力(地震レベル、風圧力、積雪荷重など)を設定をします。
外力に対して建築物がどのように応答するか(各階の変形量、部材に生じる応力、建物の加速度など)を、建物の固有周期、減衰性能、部材の非線形特性などを考慮して算出して、応答値がそれぞれの限界状態ごとに定められた許容基準値(許容変形量、許容応力度、許容加速度など)以下であることを確認します 。

限界耐力計算は、保有水平耐力計算と同じく高さが31mを超え60m以下の建物や、より合理的で経済的な設計をする場合に使います。
時刻歴応答解析
時刻歴応答解析は、建築基準法施行令第81条第1項に基づき、建築物の構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算で、その実施と評価には国土交通大臣の認定が必要になる、最も高度な構造計算方法です。
時刻歴応答解析は、実際に観測された過去の地震記録(観測波)や、対象とする建築地の地盤特性や想定される地震規模に基づいて作成された模擬的な地震波形データ(模擬波、人工地震波)を用いて、建物が地震時の時間経過によってどのように揺れたり、変形したり、部材に応力が生じるかを詳細にシミュレーションをします。
このシミュレーションにより、建物の各部分の応答値(変位、速度、加速度、応力、ひずみなど)を直接的かつ具体的に評価をします。

計算項目は、対象の建物を3次元にモデル化して、その質量分布、剛性、減衰特性などを設定して、地震動(複数の異なる特性を持つ波形を用いることが一般的)を選らんだり作成したりします。
その後に、モデルと入力した地震動を用いて、コンピュータによる非線形動的解析(ステップ・バイ・ステップの数値積分)を実行し、建築物の各時刻における応答値を算出します。
最終的に、得られた最大応答値などが、設定された性能目標(例えば、特定の部材が降伏しない、層間変形角が許容値を超えない、建物が転倒しないなど)を満たしているかの確認をします。

時刻歴応答解析は、高さが60mを超える超高層建築物のときに使います。
これらの建築物は、その高さと柔軟性から地震時の挙動が複雑になりやすく、従来の静的な解析手法や簡略化された動的解析手法では安全性を確かめることが難しいため、時刻歴応答解析が義務付けられています。
又、免震装置や制振装置を採用する建築物、その他、特殊な構造を持つ建築物や極めて重要な機能を持つ建築物なども、その性能を詳細に検証するため、この解析方法が用いられたりします。
時刻歴応答解析の実施には、構造力学、地震工学、数値解析に関する高度な専門知識、高性能な解析ソフトウェア、そして入力する地震動の適切な選定と評価が不可欠で、かなり複雑になっています。
まとめ
日本の建物における構造計算は、建築基準法が土台になっています。
建物の種類、規模、用途、安全性の水準に応じて、7種類の計算方法が規定されています。

2025年4月1日に施行された改正建築基準法は、特に木造建築物の構造計算に大きな変化がありました。
特例範囲の縮小や、構造計算が必要となる規模や基準の厳格化、壁の量や柱のサイズ基準を実際の建物に近いかたちに見直しされ、近年の木造建築物の重量化や設計の多様化に対応して、木造建築物全体の構造安全性の向上が必須になっています。

改正建築基準法で、以前よりも安全になったと思いますが「仕様規定」と「性能表示計算」は厳密にいうと構造計算ではありません。
家を建てる時は、許容応力度計算という構造計算をするのが一番安全になります。
許容応力度等計算以上の高度な計算は、家のような比較的小さな建物ではほとんど使いません。
公益財団法人日本住宅・木材技術センター発行の「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」(2017年版)のような、木造の家の構造設計において、構造計算や荷重計算、木材の選択などを解説している本があるので、許容応力度計算が確実に計算できます。

上記画像は公益財団法人日本住宅・木材技術センター発行の「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」(2017年版)
ちなみにこの本は、表紙がグレー色であることから、通称「グレー本」と呼ばれています。
「グレー本はお持ちですか?」などと聞いて分からないような工務店やハウスメーカーは、許容応力度計算をしていても、正しく計算ができていないことも考えられます。
2017年と古いので、そろそろ改定があるような気がしています。
2017年の前は、私が知っている限りですが、2008年、2001年、1988年と3冊あります。
改定されるたびに、分かりやすくなっている印象です。

上記画像は公益財団法人日本住宅・木材技術センター発行の「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」(2008年版)
2005年にあった姉歯事件では「姉歯秀次」元一級建築士が、国土交通省が認定した構造計算ソフトを改ざんして、マンションなどの構造計算書を偽造したことが発覚しました。
構造計算は、正しく正確に計算してこそ、地震や台風に耐えられる家や建物になります。
構造計算をしているだけでは安全ではないので、何を根拠に計算をしているかも重要です。
木造の家なら「グレー本」を持っているか?使っているかが判断になると思います。
一度、訪ねてみてください。
営業の人は知らない場合もありますが、設計をしていて知らないのは、ちょっと問題ありではないかと思います。


ワダハウジング和田製材株式会社
・一級建築士
・一級建築施工管理技士
・省エネ建築診断士(エキスパート)
・住宅外皮マイスター
・一般社団法人みんなの住宅研究所会員(会員番号:200019)
・既存住宅状況調査技術者
・JBN省令準耐火構造資格者
纐纈和正
