2025.09.01
レンジフードは使えればいい?レンジフードは室内環境に影響を与えます

こんにちは!
ワダハウジングの纐纈です。
一級建築士など多数資格を持っています!
住宅には建築基準法で、24時間住宅の室内を換気する機械の設置が義務付けされています。
2時間に1回、住宅内の空気を入れ替えなければいけません。
その換気量を計算するには、まず住宅の容積が分からないといけません。

目次
24時間換気の換気量の計算
例をあげて容積を計算してみます。
省エネなど国のプログラムを使用する時、国は自立循環型モデルプランというものを使用して計算をしています。
こんな間取りのモデルプランです。

1階67.90㎡、2階52.17㎡、合計120.07㎡の36.32坪の4LD・Kの間取りです。
というのも、一般的な住宅の床面積は120㎡が多いからだそうです。
私達の住んでいる土岐市では、少し小さいと思われる方もみえると思いますが、東京や大阪などの都市部も合わせれば、120㎡ぐらいといったところでしょうか?
現在では、建築資材や燃料費の高騰で価格が高くなったこともあり、もう少し小さい住宅が増えています。

この120㎡の住宅の容積は、天井の高さが2.5mだとすると、
120㎡×2.5m=300㎥
建築基準法の24時間換気の換気量は、2時間で家中の空気が1回入れかわる、1時間なら0.5回入れかわるように決められています。
よって300㎥×0.5回=150㎥/hとなります。

上記画像は、Panasonicの24時間換気ファン
150㎥/hの容量を満たした24時間換気ができる機械を設置をします。
上記画像のような換気ファンは、おおむね50㎥/h前後換気ができるものが多いので、3台~4台設置が必要になります。
しかし、この24時間換気ファンよりも換気が出来てしまうのが、キッチンのレンジフードです。

上記画像は、ノーリツのレンジフード
レンジフードは24時間換気よりも熱のロスが大きい
大体のレンジフードは「強」「中」「弱」と3段階に分かれています。
レンジフードの風量は機種によりますが、弱運転で約180~240㎥/h、中運転で約300~350㎥/h、強運転で約440~530㎥/hが目安とされています。
※あくまで目安なので実際にはもっと風量があるものをあったり、少ない風量のものもあります。
強運転だと24時間換気の換気ファン8~10台分の風量があります。

上記画像は、リンナイのレンジフード
ここで、換気による熱ロスの計算をしてみたいと思います。
自立循環型モデルプランにおける、室内と室外1℃差当たりの24時間換気による熱損失の計算は以下になります。
0.34W/㎥・K(定数)×150㎥=51W/K
この51W/Kを床面積で割ることで、換気による熱損失を求めることができます。
51W/K÷120.07㎡=0.4247522...おおよそQ値0.425
※この計算は熱損失係数(Q値)のうちの換気による熱損失分を計算しています

上記画像は、ベンテックの自然給気口
続いてレンジフードの計算です。
レンジフードは24時間換気のように常に動いていないので、計算が難しいです。
各家庭によって動いている時間がかなり変わるかと思います。
ここでは日本工業規格の「換気扇の設計上の標準使用期間を設定するための標準使用条件」に載っている想定時間を元にします。
キッチンの換気時間は2,410時間/年と想定されています。
これを1日に直すと約6.6時間となります。
個人的にはそんなに使わないと思いますが、他に根拠となる資料が無いのでこれを用います。

上記画像は、富士工業のレンジフード
レンジフードの運転で一番多いのが「中」だと思います。
その「中」の風量は約300~350㎥/hなので、平均をとり325㎥/hで計算をします。
自立循環型モデルプランにおける、室内と室外1℃差当たりのレンジフードによる熱損失の計算は以下になります。
ただし、正確には計算ができないので、1日の平均値になります。
0.34W/㎥・K(定数)×325㎥×6.6/24=29.92W/K
熱損失係数(Q値)として計算をすると
29.92W/K÷120.07㎡=0.249187...おおよそQ値0.249
このQ値0.249を省エネの観点から説明すると、土岐市と高山市ぐらいの気温差になります。

24時間換気の1日のQ値0.425、レンジフードの1日の平均Q値0.249なので、24時間換気の約58%に相当する熱ロスをしていることが分かります。
実際に使っているとされる6.6時間のその瞬間で計算をすると
0.34W/㎥・K(定数)×325㎥÷120.07=0.92029...おおよそQ値0.920
このQ値0.920は、土岐市と北海道ぐらいの気温差になります。

レンジフードの作動による熱ロス
日本の共働き家庭で多いのが、気温が低い時間の朝食や弁当づくりの時間と、陽が沈んだあとの室温が下がる夕食の時間帯だと思います。
金額にすると分かりやすいので、金額で表してみようと思います。
条件
外気温35℃、室温27℃、レンジフード作動時間6.6時間、レンジフード「中」の風量平均325㎥/h
一日の換気によるロスは
0.34W/㎥・K(定数)×325㎥×6.6h×(35-27)=5,834.4W
5,834.4W分冷房で冷やした空気を外に捨てていることになります。

やっここで金額にしていきます。
条件
エアコンのAPF(エアコンの通年エネルギー消費効率、この数値が大きいほどエネルギーを効率よく利用でき消費電力を抑えることができます)を少し古い機種と仮定して2、電気代は、全国家庭電気製品公正取引協議会(家電公取協)が示す31円/kWh
一日の電気代のロスは
5,834.4W÷2×31円/kWh=90,433.2円/kh
kがあるので1/1,000をすると90,433.2円/kh×1/1,000=90.4332円、おおよそ90円/日になります。

これが1ヶ月になると、90円×30日で2,700円になります。
夏はエアコンぐらいしか室内を冷やす機器はないですが、冬はエアコンよりも効率が悪い暖房器具があります。
石油ファンヒーターやガスファンヒーターなどを使うと金額差はもっと大きくなってしまいます。
ここまでは、冷房ロスと暖房ロスの話だけでしたが、実際の状況はもっと悪くなります。
レンジフードの作動による更なる弊害
大半の住宅は、夏も冬もLDKを閉め切って冷房したり、暖房したりしています。
このような住宅は、気密性能もあまりよくないことが多いです。

一般的に多い20畳ほどのLDKだけで、レンジフード「中」の風量だとしても、平均325㎥/hも換気されることになります。
本来20畳のLDKなら、20畳÷2(坪数にする定数)÷0.3025(㎡にする定数)=33.057…㎡で、天井の高さが2.4mだとすると33.06㎡×2.4m=79.344㎥になり、その半分の39.672㎥分が1時間で換気できればいいのですが…
レンジフードが作動すると、24時間換気の自然給気口から、夏は暑く湿った外気が、冬は大量の冷気が入ってきます。
それだけでなく、そこら中の隙間からも暖気や冷気が入ってきます。

自然給気口は、LDKの外壁側に設置してあることが多いので、生活者のいる場所を気流が通過していくことになります。
暖気や冷気の気流が暑かったり、寒かったりするので、エアコンの設定を下げたり、上げたり、冬なら別の暖房器具や採暖器具に頼ったりしないといけなくなります。

さらに、気密がそんなに良くない住宅は、レンジフードが作動していると玄関ドアが開けにくい現象も起こります。
ここ数年の既製品の玄関ドアは大きく、幅90cm高さ2m30㎝ほどあります。

小さな子どもが帰宅してドアを開けようとした時に、レンジフードが作動していたら玄関ドアが開けられないこともあります。
同時給排型レンジフードがおススメ
玄関ドアが開けにくい時の解消方法は、2つあります。
①レンジフードに連動して気密ダンパーが作動する専用の給気口をレンジフードの近くに設置
②同時給排型レンジフードにする
他にもあるのですが、一般的な方法としてはこの2種類になるかと思います。
それでは、もう少し詳しく解説をしていきます。
①レンジフード連動の給気連動シャッター
以前の住宅はこのタイプが多かったようです。

上記画像は、Panasonicの給気連動シャッターの図
上の図のように、連動用コードで給気連動シャッターをレンジフードに接続することで、レンジフードを作動させると給気連動シャッターが開き、新鮮な空気を取り入れることができます。
ただ、設置位置が難しいと感じます。
ガスコンロの場合、給気口の位置が火に近いとガスコンロを使用した時、火が揺れて危険を伴います。
IHクッキングヒーターなら問題はないのですが、調理をする方が給気口の近くにいると、夏は熱気で暑く、冬は冷気でとても寒く感じます。

それなら、人がたたない位置に設置すればいいと思うのですが、あまりレンジフードから離れた位置に設置すると、レンジフード用の給気の意味がなくなりますし、電気配線などの費用も高くなります。
②同時給排型レンジフード
一般的なレンジフードは、直径150㎜のダクトが1本で排気をします。
同時給排型は、排気用に1本、給気用に1本、合計2本のダクトが必要なレンジフードです。

上記画像は、Panasonic同時給排型レンジフードの図
1台のレンジフードで排気をしながら、外気を給気できる優れものです。
同時給排型レンジフードを使ったからといって、熱ロスがなくなるわけではないですが、大半は調理時の熱で相殺できます。
少なくともリビングやダイニングを冷やしたり、暖めていた空気がレンジフードに全て吸い込まれることがなくなるので、不快感が減ります。
究極のレンジフード
熱のロスだけを考えたら、IHクッキングヒーター専用になってしまいますが、室内循環式レンジフードがあります。

上記画像は、富士工業の室内循環レンジフードの図
普通の換気式のレンジフードは、調理時の汚れた空気を屋外に排出するものです。
室内循環フードは、汚れた空気をろ過してキレイな空気にし室内に戻すフードで、部屋の快適な空気は捨てずに、油煙やにおいだけをフィルターがろ過してくれます。
空気を捨てないので、外壁に換気フードをつける必要ながないので、美観をそこねたり、外壁の換気フードから雨漏れの心配がなくなります。

上記画像は、富士工業の室内循環フード
フィルターを何種類も交換しないといけない手間がありますが、節約できる冷暖房費と上質な空気環境が欲しい方にはおススメなフードです。
ただし、室内循環レンジフードはレンジフード本体の価格も高くなります。
ガスコンロでは使用ができません。
3年に1回、3枚のフィルター交換でおおよそ3万円ほどかかり、12年目は油吸着フィルターの交換でおおよそ3万円ほど余分にフィルター交換費用がかかります。

上記画像は、富士工業の室内循環フードの交換フィルター
高気密高断熱の住宅ですと、削減できる冷暖房費をよりもフィルター交換費用の方が高くなることが多いので、注意してください。
レンジフードは室内環境に大きく影響する
レンジフードはにおいや煙を素早く排出しないといけないので、風量が自然と大きくなります。
その結果、室内環境に大きな影響を与えてしまいます。
レンジフードの特徴を理解して、住宅を設計している工務店やハウスメーカー、設計者がいる会社で住宅を建てると、より快適な室内環境に近づくと思います。

レンジフードの熱ロスに対して、国の基準はありません。
住宅の確認審査機関からも指摘はありません。
キッチンメーカーからもアドバイスをしてくれません。
その結果、熱ロスだけでなくエネルギーの無駄使いになったり、お金が余分にかかったりしてしまいます。
高気密高断熱の住宅を建てるならキッチンのレンジフードの選定ミスをしないように気を付けてください。
私のおススメは、本体の価格も割と高くない「同時給排型レンジフード」
お金に余裕があるなら「室内循環型レンジフード」を選ぶとよいと思います。


ワダハウジング和田製材株式会社
・一級建築士
・一級建築施工管理技士
・省エネ建築診断士(エキスパート)
・住宅外皮マイスター
・一般社団法人みんなの住宅研究所会員(会員番号:200019)
・既存住宅状況調査技術者
・JBN省令準耐火構造資格者
纐纈和正
